バセドウ病との関係

監修:オリンピア眼科病院 神前 あい 先生
伊藤病院 渡邊 奈津子 先生
  

バセドウ病と甲状腺眼症では、異常がみられる免疫システムが一部共通しています

バセドウ病は、自分の免疫システムが誤って甲状腺を刺激することにより、甲状腺の活動が高まり、甲状腺ホルモンが過剰に作られる病気です1)
甲状腺ホルモンの分泌は、甲状腺刺激ホルモンの働きによって調節されています。この調節過程で働くタンパク質(甲状腺刺激ホルモン受容体)に結合する抗体が誤って作られると、甲状腺刺激ホルモン受容体が刺激され、甲状腺ホルモンの過剰分泌につながります(図)。このような病気を自己免疫疾患といいます1)
眼の周りの組織にも甲状腺刺激ホルモン受容体が存在し、他の受容体とも協調して作用していることが分かっています。そのため、甲状腺眼症でもバセドウ病と一部共通するメカニズムによって免疫反応が起こり、症状が引き起こされると考えられています2)
図:バセドウ病が起こるメカニズム
  

バセドウ病は、20~30歳代の女性に多く発症します

患者さんの男女比は約1:3~5と女性に多く、20~30歳代に発症しやすいとされています。原因として、遺伝やストレスなどの影響があるといわれていますが、正確なところは分かっていません1)

バセドウ病の患者さんの25~50%に眼の症状が現れます

甲状腺ホルモンは全身に作用して代謝を調節しているため、バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰に作られることによってさまざまな症状が現れます(図)3)。バセドウ病の特徴的な症状として、眼球突出、甲状腺の腫れ、頻脈などがあり、バセドウ病の患者さんの25~50%に眼の症状が現れます4)
図:バセドウ病の症状

ただし、甲状腺眼症は眼の周りの組織の免疫システムの異常によって起こることから、甲状腺の機能が正常になっても眼症の症状は改善されないことがあります。そのため、眼症に対してはバセドウ病とは異なる専門医による治療が必要となります3)

バセドウ病の治療法として、①薬物治療、②放射性ヨウ素内用療法、③手術の3種類があります。

①薬物治療1,3)

甲状腺で甲状腺ホルモンが作られるのを抑える薬(抗甲状腺薬)を服用する方法です。最も簡便かつ外来で行えるため、多くの場合、まずは薬物治療が選択されます。薬が合わないと副作用が生じる可能性があります。また、いったん症状が治まっても服薬を中止すると再発し、再治療が必要となることがあります。

②放射性ヨウ素内用療法3)

ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料となる物質で、体内に入ると甲状腺に集まる性質があります。放射性ヨウ素内用療法は放射線を出す機能をもったヨウ素を服用し、放射線の力で甲状腺の細胞を減らして甲状腺の働きを弱める治療法であり、薬物治療より再発が少ないとされます。一方、甲状腺眼症を悪化させることがあるため、治療前にあらかじめ眼症の評価を行います。治療後にも自己抗体が上昇している場合は眼症が発症したり悪化したりする可能性がありますので、眼科的な定期検査が必要となります。

③手術3)

甲状腺を切除し、甲状腺ホルモンの産生を抑える方法です。甲状腺を完全に切除する全摘術と、一部を残す亜全摘術がありますが、現在は再発のリスクがない全摘術が主流となっています。ただし、全摘した場合は生涯にわたり甲状腺ホルモン薬の服用が必要となります。

  • 日本内分泌学会: 一般の皆様へ バセドウ病(http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=40)(2024年7月閲覧)
  • Cui X, et al. Front Immunol 2023; 14: 1062045
  • 伊藤公一 監修: 患者のための最新医学 バセドウ病・橋本病 その他の甲状腺の病気 改訂版 高橋書店, 2020
  • 廣松雄治、他: 診断と治療 2023; 111(5): 623-627