症状が起こるメカニズム1)

監修:オリンピア眼科病院 神前 あい 先生
伊藤病院 渡邊 奈津子 先生

甲状腺眼症では、免疫システムの異常により眼の周りの組織に炎症が起こることで、症状が現れます

  • 概要

  • ナレーション

症状が起こるメカニズム

  再生時間 04:28

甲状腺眼症は、目にさまざまな症状を引き起こすまれな病気です。
甲状腺眼症はバセドウ病眼症ともよばれ、バセドウ病の患者さんに多く発症します。
バセドウ病は甲状腺の自己免疫疾患であり、甲状腺眼症は目の奥の組織の自己免疫疾患です。
バセドウ病では、本来自分の体を守る働きをする免疫が、誤って自分の甲状腺を刺激してしまうことで、甲状腺ホルモンが過剰に作られる甲状腺機能亢進症が起こります。
一方、甲状腺眼症では、免疫システムが目の奥の筋肉や組織を刺激し、炎症として赤みや腫れを引き起こします。
さらに、目の奥の筋肉や脂肪組織が肥大し、むくみを生じます。
バセドウ病に対しては、甲状腺の機能を正常に近づける治療を行います。
甲状腺眼症でも甲状腺の機能を正常に保つことは重要ですが、それだけでは目の症状は改善しないことがあります。
甲状腺眼症は、甲状腺眼症に詳しい眼科医や内科医による診察・検査を受ける必要があります。
甲状腺眼症の発症初期には、目の痛み、まぶたの腫れ、充血、ドライアイ、目のゴロゴロ感、過剰に涙が出る、かすみ目などの症状が現れます。これらの症状は、アレルギーなどの他の病気と間違えられることがあります。
甲状腺眼症は、炎症のある時期は時間の経過とともに悪化する可能性があります。
甲状腺眼症が進行すると、眼球突出やまぶたの引きつれ(眼瞼後退)が起こることがあります。
また、眼球の周りの筋肉が腫れると目を動かしづらくなり、ものが二重に見える複視などの視機能の障害につながることがあります。
場合によっては、筋肉や脂肪組織が腫れることで視神経が圧迫され、失明につながることもあります。
どのような人が甲状腺眼症を発症しやすいのか、完全には分かっていませんが、リスクを高めるいくつかの要因があることが分かっています。要因として、バセドウ病や橋本病などの甲状腺の病気にかかっていることがあげられます。
また、バセドウ病の治療として行われる放射性ヨウ素内用療法も、甲状腺眼症の新規発症や悪化につながることがあるとされています。
一般的に女性のほうが発症しやすく
さらに、たばこを吸う人、中年以上の人ではより発症率が高くなります。
甲状腺眼症はまれで複雑な疾患のため、甲状腺眼症に詳しい医師による治療を受ける必要があります。
甲状腺眼症は、炎症のある時期は時間の経過とともに悪化する可能性があります。
早期に診断を受け、適切なタイミングで治療を開始することが大切です。
気になる症状があったら、主治医または甲状腺眼症に詳しい眼科医や内科医に相談しましょう。

続きを読む 閉じる
  
眼の周りの組織には、バセドウ病の発症に関連すると考えられている甲状腺刺激ホルモン受容体が存在しています。甲状腺眼症が起こる一因として、バセドウ病と同様このタンパク質に結合する抗体(自己抗体)が誤って作られ、免疫反応が起こる結果、眼の周りの組織に炎症が引き起こされることが推測されています。一方、自己抗体がなくても甲状腺眼症を発症する場合もあることから、近年では別の受容体が甲状腺刺激ホルモン受容体と協調して作用し、免疫反応を引き起こすことも示唆されています。
眼の周りの組織に炎症が起こると、さまざまな症状が現れます。たとえば、まぶたや涙腺に炎症が起こると、まぶたの腫れやドライアイにつながります。眼の周りの筋肉や脂肪が腫れると眼球が前に押し出され、眼の突出やまぶたの引きつれが起こります。眼を動かす筋肉が腫れて動きが悪くなると、ものが二重に見える複視が起こります。筋肉の腫れで視神経が圧迫されると、視力の低下や視野の欠けが起こり、進行すると失明に至ることもあります。
一方、炎症が鎮静化すると腫れも治まってきますが、その過程で組織が固く線維のようになることがあります。これを線維化といいます。線維化が起こると筋肉がうまく動かなかったり、脂肪組織が固まってしまったりして、眼の動きやものの見え方の異常、まぶたの引きつれなどの症状が残ることがあります(図)。
図:甲状腺眼症の症状が起こるメカニズム
  
  • 日本甲状腺学会・日本内分泌学会 編集: 甲状腺眼症診療の手引き メディカルレビュー社, 2020